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スマート法の始まり
歯科技工所にはラボスキャナ、歯科医院には口腔内スキャナ(以下IOS)ということが一般的な認識となっている.当社は総勢52 名の中堅ラボで、以前はラボスキャナ7 台を使用していたが、現在使用しているスキャナはラボスキャナ1 台、IOS 5 台である。つまりラボスキャナ6 台は埃をかぶっている状態である。本論考の結論を前もっていうと、「中堅ラボにおいてはラボスキャナは1 台あれば十分、それ以外はIOS を多数揃える方が効率的である」。当社で「スマート法」と呼ぶ支台歯トリミングをせずにIOS を使用してスキャンデータを取得する技法が好結果を得ているので、その根拠と利点を順を追って述べてみたい。デジタル技工では、一般的に石膏模型からスキャンデータを取得することから作業が始まる。ラボスキャナでは支台歯のマージン付近がスキャンできないため、分割模型を製作し、支台歯部はトリミングされることになる。
その後支台歯模型と共に対合歯もスキャナによってデータ取得され、クラウンやインレーのデザインが始まる。
「もしここでIOS を使用したらどうだろうか?」というのがスマート法の始まりであった。IOS なら分割模型を製作しなくても、支台歯のマージンまでデータ取得できるということである。さらにカービングインスツルメントを使用せずにパソコンのCAD ソフトでデザインするのだから、支台歯トリミングも必要ないということになる。つまり石膏模型から分割模型を製作するのではなく、底面と側面を綺麗に整えるだけ、あるいは歯肉がマージンを覆いスキャンしにくいところをナイフでカットするだけで模型製作は完了する。コンタクト調整が難しい、あるいは造形後のマージン調整に必要な場合のみ分割模型を製作するかプリント模型を製作することになる。
その結果、ジルコニアからインレー、コアに至るまで、すべての模型をIOS でスキャンすることから当社の1日は始まる。この場合の「すべて」は文字通りの意味で「すべて」であり、メタルインレー、メタルコア、メタルクラウンまで含まれる。鋳造用ワックスパターンもCAD/CAM 製作なのである。この時、対合関係もスキャンするので、咬合器装着という作業も省略できる。当社では毎日約100 ケース程度このスマート法を用いているが、以前は1 日150 〜200個程度分割模型を製作していた。スマート法でも分割模型を製作することはあるが、模型製作は以前の約2 分の1 に減少しており、これで1 日2 時間程度技工作業の時間短縮ができたはずである。ついでに支台歯トリミングをしないため石膏の粉塵が大幅に減少し、作業環境が多少改善できたことを記しておく。
当社が使用しているスキャナ

当社の1 日の始まり(IOS によるスキャン作業)

IOS 導入スピードが速く、作業場の確保ができなかったため、元々セミナールームであった部屋をIOS の作業場にしている。
対合関係のスキャン

スキャンするだけで咬合器装着したことになる。
咬合器装着

この作業が不要となり、以前と比較して咬合器の必要数は3 分の1 となった。
分割模型製作量の比較

左が分割模型製作予定のグループ、右のグループは基底面と側面をトリミングするだけのグループ
トリミング時の石膏粉塵

現在、この風景は珍しい。